ポスターの青
(モルディヴ バンヤンツリー)
どういういきさつだったかは忘れましたが、子どものころ、モルディヴの話を耳にし、写真を見たことがあります。
こんなきれいな場所に、一度でいいから行ってみたいと思いました。でも、夢のような場所だから、夢のまま終わるのだと、子ども心にあきらめていました。
少し大きくなって、世界にはきれいな海のリゾートがいくつもあることを知りました。それでもなおモルディヴは僕にとって特別な場所であり続けました。
そのころの僕は、アルバイトを通して、お金を稼いだり貯めることの大変さを知りつつありました。当時の僕にとっては、1、2万円の旅費を捻出することすら容易ではなかったし、まして、たかだか旅行に数十万円を費やすなんて、正気の沙汰とは思えませんでした。
あの海の青さは、ポスター用のデフォルメに違いない――いつしか僕は、そう自分に言い聞かせるようになりました。
モルディヴはさらに遠くなりました。
さらに大きくなって、僕はモルディヴの渚にいました。
ポスターと同じ色、あるいはそれ以上に青い海がほんとうにあることを知りました。
たかだか旅行に数十万円を費やす値打ちがあるのかどうか、いまだに答えは出ないけれど。