津波と海鳥
(南知多 豊浜漁港にて)
東北沿岸を襲った津波の映像を、僕もいくつか目にしました。
初めて見る津波は、それまで僕の中にあったイメージとはまったく違うものでした。あわてて、吉村昭さんの『三陸海岸大津波』を取り寄せて読み、津波はなぜ津波というのか、そもそも「津」とはどういう意味なのか、ようやく知ったのです。
数ある映像のなかで、僕の心に焼き付いたのは、海鳥のようすでした。
防波堤の内外には、たくさんの海鳥が浮いていました。やがて海面がふくれあがり、大きなうねりとなって今まさに防波堤をのりこえようとしています。
しかし、海鳥たちは、うねりにあわせてふわりと上下しただけで、飛び立ちもしなかった。すさまじい津波がおしよせているのに、海鳥たちはその上に浮いたまま、滑るようにいなして、それでおしまい。
人々の絶叫や絶望のうめき声。かたや、何ごともなかったかのような海鳥。
その対比があまりにあざやかで、こういうのを「背筋が凍る」というのでしょうか、僕はこの映像がいちばん怖かった。
空を飛べて、地面を歩けて、水に浮くことができて――考えてみれば、最強のイキモノのひとつですね。