別れは突然に
(2004 ケニア/マサイマラ動物保護区)
ドライバーさんが人差し指を立てて口もとにあてました。
茂みにそって歩いているシマウマ親子は、その先のやぶで涼んでいるライオン家族の存在にまだ気づいていません。おそらく、この親子はマサイマラに渡ってきたばかりで、そのへんの事情にうといのでしょう。
僕らは静かにカメラの電源を確認し、息を殺してなりゆきを見守ります。
一瞬のできごととは、まったくこのことです。
茂みの切れ間にさしかかったところで、シマウマ親子がパッと身をひるがえす。同時に1頭のメスライオンが躍動する――。
ライオンはちゅうちょすることなく、子どものシマウマを追いました。一撃です。お尻に前足がかかったと思ったら、そのままコロリとシマウマは倒れました。
僕の腕では、シャッターを切るどころではありません。
ライオンは荒い息のまま、シマウマののどをくわえて運んでいきます。
少し離れた場所では、母親が運ばれていく我が子をじっと見ていました。