ヌーのいないマサイマラ
(2004 ケニア/マサイマラ動物保護区)
初めてマサイマラを訪れたのは3月でした。
このとき、僕はマサイマラでヌーをまったく見かけませんでした。少しはいたのかもしれませんが、記憶にない。
うじゃうじゃとヌーだらけの光景を知っている今となっては、そのときのことが自分でも信じられないくらいです。ヌーの大移動は、それだけメリハリのある営みであるともいえます。
わざわざケニアまで行かなくても、動物園やサファリパークに行けばいいじゃないの――。
何人もの人からそう言われました。
僕は動物園もサファリパークも好きです。単にイキモノを見たいだけならそれでもいいし、写真ならむしろ動物園のほうが撮りやすいでしょう。
早い話、家に風呂があっても、ときどき温泉に行きたくなるのと同じ。僕らにしても、それほど深い意味や志があるわけではないのです。
四万十川でヌーの川渡りが見られて、鳥取砂丘でベイサ・オリックスが見られて、近所に野良チーターの親子がうろついているなら、わざわざアフリカまで行かなかったかもしれませんね。
見たいものがアフリカにあったから。
アフリカまで行かないと見られないから。
それだけです。
3月のマサイマラを見てみたいな、とカミさんが言います。
道の両脇にチョウセンアサガオがたくさん咲いていて、ヌーをほとんど見かけない――そんなマサイマラがあることを、彼女はまだ知らないのです。